アルコール依存症とは?

どんな病気か?

自分の意思でお酒を飲んだりやめたり、飲む量を決めたりすることが出来なくなる病気です。飲酒についてのコントロールをなくしてしまう病気といわれています。飲酒を繰り返すことで誰でもなる可能性のある病気です。

アルコール依存症になると失業、離婚、借金などさまざまな社会的問題・課題を抱える人が多いです。アルコール依存症者は日本では109万人程度といわれています。そのうち治療を受けているのは5万人程度です。このことから治療を受けることが難しい病気と言えます。

アルコール依存症者のなかには、お酒を飲んで暴れたり、迷惑行為を繰り返す人もいますが、飲酒時に特に問題のない人もいます。

ここでまず知っていただきたいのは、「アルコールは依存性のある薬物」だということです。依存性のある薬物は、合法なものから違法なものまで(ニコチン、覚醒剤、ヘロイン、大麻、危険ドラックなど)たくさんあります。アルコールは、「日本では依存性のある合法的な薬物」なのです。アルコールは依存性のある薬物なので飲酒を続けていると依存症になる可能性があるのです。

アルコールは依存性のある薬物

どのようにしてアルコール依存症となるのか?

アルコール依存症には次のような過程でなると言われています。

初飲 ⇒ 機会飲酒 ⇒ 習慣飲酒 ⇒ 精神依存 ⇒ 耐性 ⇒ 身体依存・離脱症状 ⇒ アルコール依存症

初めてお酒を飲んでから、お酒が少し飲める人は週末の飲み会や忘年会、新年会などの集まりでお酒を飲むようになります(機会飲酒)。その後、晩酌をするようになり(習慣飲酒)、酒量が増えていきます。だんだんと耐性ができてきて、飲み始めた頃のような量では酔えなくなりさらに酒量が増えます。また、仕事の失敗やストレスなどがかかるとお酒が飲みたくなるようになります(精神依存)。そうするとさらに酒量が増えていき、ますます耐性ができます。最終的には身体依存と言われる状態となり、お酒を飲まないとイライラして怒りやすくなったり、冷や汗をかいたり、手が震えたりします(離脱症状)。このようにしてアルコール依存症となります。

上記のようなとき、脳の中では次のようなことが起こっています。まず飲酒をすると脳の中で快楽物質が出され、それによって快楽を感じます。これを得るために定期的な飲酒を開始します。しかし飲酒を繰り返していくと次第に脳は快楽物質に鈍感になってしまい、快楽を得るためにはよりたくさんの快楽物質が必要となます。たくさんの快楽物質を出すためには、たくさんのアルコールが必要となるため、飲酒量が増えます。たくさんお酒を飲むと快楽物質もたくさん出され、最初は満足しますが次第に脳はこれにも慣れてしまうのです。そうするとさらに飲酒量を増やして快楽を得ようとして、飲酒量は増えていき(耐性)、飲酒を止めると離脱症状が出るようになるのです。こうして脳内の神経伝達物質の変化が起こり、これがアルコール依存症の原因の一つと言われています。つまり、アルコール依存症とは脳の病気なのです。

また、もともと人間関係や自らの行動、自尊心、感情などを調整することが苦手な人が物資に依存しやすいとも言われています。つまり心理的な要素も依存症となる要因のひとつです。

アルコール依存症

治療について

アルコール依存症は、まず、周囲の人が問題に気がつきます。「少し飲みすぎなのではないか?」、「会社を休みがちなのは深酒のせいなのではないか?」、「医者から身体のためにはお酒を控えたほうがいいといわれているのに、まったく飲む量がかわらない」などなど。こうした事を本人に伝えますが、大抵の場合、飲み方に変化は起こりません。「わかった、少し減らしてみるよ」と同意したり、少しは減らす努力をしたりする方もいますが、すぐに元のように飲み始めます。そうすると、周囲の人は、「このあいだ、あんなに話したのに飲み方が変わっていない」、「減らすといったのにちっとも減らす気がない」と感じ、「あの人はぜんぜんわかっていない」となります。そして、もっときちんと説得しなければいけないと考え、最初よりも強い口調で事実を伝え、お酒を減らす事を迫ります。本人は、強く言われれば「わかっているよ」とか「飲み方には問題はない」などと反発するようになります。そして、「うるさい事を言われると飲みたくなる」などと言い、お酒を飲み続けます。このような関わりはアルコール依存症者と周囲の人との間でよく起こる事です。周囲の人は本人を心配して、本人のために少しでもお酒が減ればいいと望み、一生懸命関わります。この事はよいことなのですが、うまくいかないことが多いです。アルコール依存症になってしまった人が治療を始めるのは非常に難しいのでちょっとした工夫が必要となります。

最初にも書きましたが、109万人いると言われているアルコール依存症者の中で治療を受けている人は5万人もいないのです。周囲の人が関わる事は非常に重要な事でそれがなければアルコール依存症者は断酒する事はできませんが、そのためにはアルコール依存症治療の専門家に相談する事が重要となります。相談は各地の精神保健福祉センターや保健所で受け付けています。

相談は、上記のように周囲の人が問題に気がつくので相談は家族や周囲の人がすることが多いです。最初は必ずしも本人が相談に来る必要はありません。まずは、家族など関わる人が病気を知り、対応の仕方を練習することが大切です。関わる人の態度が変化することで、関わる人のストレスが大きく軽減されます。さらに本人が治療の場につながりやすくなります。

本人の治療は、アルコール依存症専門外来で受けることになります。精神科クリニックや精神科病院にあります。また、外来だけでなくデイケアや作業所(障害者総合支援法による)など通所することができる施設もあります。さらに、断酒会やAA(アルコホーリックス・アノニマス)などの自助グループに通うことも重要です。

アルコール依存症は完治することはないといわれています。つまり、飲み始めたころのように飲酒行動をコントロールすることはどんなことをしても出来ません。そのため、生涯にわたり断酒し続けることが必要となります。断酒期間が何年にわたっていても、再び飲酒を始めれば、問題は繰り返され、状況は悪くなっていきます。バランスの崩れてしまった脳内の状況は飲酒前には戻らないということです。しかし、断酒を続けていれば飲酒していたときに起こっていた問題はおきません。まずは断酒を続けることが大切ですが、再発率の高い病気でもあり再飲酒はよくあることです。ここで大事なのは再飲酒しても再び断酒を始めることです。そのために継続した治療・支援が重要となります。

また、断酒するだけでは、解決しない問題も多いです。断酒したのちに飲酒したことによって生じた問題やもともとの生き方の課題に取り組んでいく必要があります。

参考

AA日本ゼネラルサービス   http://aajapan.org/
公益社団法人 全日本断酒連盟  http://www.dansyu-renmei.or.jp/

アルコール依存症の治療

そのほかの特徴は?

アルコール依存症となる過程でさまざまな問題を抱えることが多いです。具体的には以下のことがあります。これらの問題を解決するためにも専門家の助けが必要となります。

  • 身体的問題:アルコールは、口腔・咽頭がん、肝硬変、骨粗しょう症、食道炎、食道がん、食道静脈瘤、心筋梗塞、高血圧、不整脈、膵炎、糖尿病、胃炎、胃潰瘍、胃がん、大腸がん、通風、抹消神経障害、大腿骨骨頭壊死などさまざまな病気の原因となるといわれています。
  • 社会的問題:欠勤、失業、借金、離婚、親族との疎遠、貧困、DV、飲酒運転、事件、自殺などの背景にアルコール問題があることが多いです。
  • 精神的問題:抑うつ状態、不眠、感情的な過敏さ(易刺激性、易怒性)、認知症、自己肯定感の低下、被害妄想、うそ、現実逃避、不安などが問題となります。


専門的な情報・用語

診断基準

WHOによるICD-10の診断基準は次の通りです。
過去1年間に次のうち3つ以上当てはまれば依存症となります。

  1. お酒を飲めない状況でも強い飲酒欲求を感じたことがある。
  2. 自分の意思に反して、お酒を飲み始め、予定より長い時間飲み続けたことがある。あるいは予定よりたくさん飲んでしまったことがある。
  3. お酒の飲む量を減らしたり、やめたりするとき、手が震える、汗をかく、眠れない、不安になるなどの症状がでたことがある。
  4. 飲酒を続けることで、お酒に強くなった、あるいは、高揚感を得るのに必要なお酒の量が増えた。
  5. 飲酒のために仕事、付き合い、趣味、スポーツなどの大切なことをあきらめたり、大幅に減らしたりした。
  6. お酒の飲みすぎによる身体や心の病気がありながら、また、それがお酒の飲みすぎのせいだと知りながら、それでもお酒を飲み続けた。


依存性のある薬物

依存性のある薬物には以下のものがあります。

薬物の依存性と主な作用の特徴


離脱症状

離脱症状には、早期離脱症候と後期離脱症候があります。